アカデミー
世界のエコシステムから読み解く「急成長」の条件
〜視座を高め、世界基準へ挑む「第9回スタートアップリーグアカデミー」レポート〜

第9回スタートアップリーグアカデミー

1月13日、新年を迎えて新たな気持ちでスタートした第9回スタートアップリーグアカデミーが開催されました。まずは現地参加の採択者たちが自己紹介を行いました。

続いて、運営会合長の福田正氏が「世界情勢が不安定な中、スタートアップに空白の時間はありません。人生や事業の節目として新年を捉え、このアカデミーでもバリューアップセッションを通じて視座を高め、次のステップへと進んでほしい」と挨拶しました。

さらに、スタートアップ支援のあり方について、スポーツ界における「リーグ」の仕組みを例に挙げて熱く語りました。「野球界では野茂英雄選手が道を切り拓き、大谷翔平選手のようなスターが生まれる土壌ができた。サッカー界ではFIFAのシステムにより、選手が育って海外へ移籍する際に『育成補償金』が元のクラブに還元される循環ができている。日本のスタートアップ界も同様に、個々のプレイヤーが育ち、世界中のチーム(市場や投資家)が獲得に来るような、そしてその成果が次の世代の育成につながるような循環を作らなければならない」と、本アカデミーが目指す「リーグ」としての意義を強調しました。

■トークセッション「成長のために知っておく世界のエコシステム」

今回は運営会合メンバーであり、一般社団法人スタートアップエコシステム協会代表理事を務める藤本あゆみ氏によるトークセッションが行われました。藤本氏は、自身の経験と豊富なデータに基づき、スタートアップとエコシステムの定義、そして世界市場での戦い方について講演を行いました。

運営会合メンバーであり、一般社団法人スタートアップエコシステム協会代表理事を務める藤本あゆみ氏によるトークセッションが行われた

Point 1:スタートアップの定義とは「急成長」することである

藤本氏は、Yコンビネーターのポール・グレアムの言葉を引用し、「急成長する会社こそがスタートアップである」と定義づけました。テクノロジーの有無や創業年数ではなく、成長のスピードこそが本質であると語ります。

OECD(経済協力開発機構)の定義では、売上高が年率20%以上で3年連続成長している企業を「スケールアップ企業」と呼びます。Yコンビネーターではさらに厳しく、週次で5〜7%の成長(年換算で約30倍)を求められる現実を紹介。「世界にはこのスピード感で生きているプレイヤーたちがいる。その中で皆さんはどう戦うのか」と問いかけました。

Point 2:補助金はあくまで「補助ロケット」

日本のスタートアップ支援環境は充実してきましたが、藤本氏は補助金への向き合い方に警鐘を鳴らしました。補助金はあくまで成長を加速させるための「補助ロケット」に過ぎません。しかし、日本の制度上、年度予算や公募スケジュールに合わせて事業計画を立ててしまい、本来必要な「急成長」のスピード感が損なわれるケースが見受けられます。「予算に合わせて成長率を決めるのではなく、自社の成長スピードに合わせて補助金をどう活用するか、主従を逆転させて考えてほしい」と強調しました。

Point 3:エコシステムの本質は「相互作用」

「エコシステム」について解説。生態系を意味するこの言葉は、ビジネスにおいては「物理的・仮想的な資源(人、場所、資金、アイデアなど)が相互作用し、共に発展していく仕組み」を指します。

藤本氏は、世界のエコシステムは「シリコンバレー一強」ではなく、各国が独自の戦略でエコシステムを形成している現状を紹介。例えばフランスでは、「ラ・フレンチテック」という国家プロジェクトのもと、航空宇宙産業ならトゥールーズ、海洋産業ならブルターニュといったように、地域ごとの産業クラスターを生かしたエコシステムを構築しています。

Point 4:最適な場所で戦う

「皆さんのビジネスがグローバル展開を目指す際、どの国のどのエコシステムに属すれば一番早く成長できるかを考えるべきです。シリコンバレーだけが正解ではありません」と、広い視野を持つことの重要性を強調しました。

産業クラスターを生かしたフランスやスペイン、また、国を挙げてスタートアップ支援を行うサウジアラビアなど、世界には多様なエコシステムが存在します。自社のプロダクトやフェーズに合わせ、成長阻害要因が少なく、支援やリソースが豊富な「最適な土壌」を見極めてエントリーすることが、グローバルでの勝率を高める鍵となります。

■バリューアップセッション

後半は、採択企業3社によるバリューアップセッションが行われました。今回は各社の課題に対し、メンター陣から具体的なアドバイスが飛び交いました。

株式会社メタクロシス:リアルなサイズ感を反映した衣服の着用画像生成システムの開発

株式会社メタクロシス:リアルなサイズ感を反映した衣服の着用画像生成システムの開発

1社目は、アパレル企業向けに特化した画像生成AIアプリケーションを開発する株式会社メタクロシスの新井康平氏が登壇しました。

事業概要と挑戦:
同社は、モデル撮影を不要にし、物撮り写真(マネキンや平置き)をもとにAIを用いて高品質なモデル着用画像へと瞬時に変換するサービスを開発しています。競合他社がクラウド上の高価なGPUサーバーを使用する中、同社はゲーミングPCレベルの安価なGPUでも動作する軽量なオンプレミス環境を提供できる点が強みです。これにより、データ漏洩を懸念する大手アパレル企業でも自社環境(オンプレミス)で導入しやすく、かつ「ささげ業務(撮影・採寸・原稿作成)」のコスト削減とCVR(購入率)向上を同時に実現します。

課題1:コモディティ化のリスク:
Google等のテックジャイアントが提供する画像生成AIの技術レベルが向上し、1〜2年後には同等の機能が一般化・無償化される可能性がある。現在の技術的優位性をどう維持し、差別化を図るかが課題。

課題2:事業展開の方向性:
アパレル業界は多品種で単価が低く、市場環境が厳しいため、この領域一本で急成長(Jカーブ)を描ききれるかという懸念がある。アパレルに特化し続けるべきか、技術を他業界へ横展開するべきかという悩み。

有識者からの金言:

有識者からの金言

福田氏は「Google等の資金力とスピードに対抗するのは厳しい」とし、「技術バイアウト、または特定大手へのOEM提供など、営業力で勝負する覚悟が必要」と指摘。その足がかりとして、TSIやオンワードといった具体的な企業の紹介とPoCの実施を即座に提案しました。

藤本氏はECの課題である「返品率」に着目。「単なる画像生成だけでなく、ユーザーのアバターでサイズ感を確認できる機能などを付加し、返品コスト削減という別の価値も提供すべき」と助言しました。

運営会合メンバーの佐々木喜徳氏(株式会社ガイアックス 執行役員)は「顧客の目的は画像生成ではなく、売上アップやコストダウン。そこにコミットするため、C向けなら圧倒的なスピードで検証を繰り返す必要がある」とハッパをかけました。

選考評価委員の松田信之氏(株式会社Booster Knob 代表取締役)は「競争の激しい日本市場だけでなく、多様性やエシカルなど異なる価値観を持つ海外のニッチ市場へ、切り口を変えてアプローチすべき」とグローバル視点でのポジショニングを提案しました。

株式会社すきだよ:グローバル向けAIカップルTechアプリの事業化に向けた仮説検証

株式会社すきだよ:グローバル向けAIカップルTechアプリの事業化に向けた仮説検証

2社目は、パートナーとの関係性を向上させるカップルテックアプリ「Riamo(リアモ)」を展開する株式会社すきだよのあつたゆか氏です。

事業概要と挑戦:
日本の離婚率の高さや夫婦関係の悪化という社会課題に対し、AIが二人の間に入って会話を促進し、関係構築をサポートするアプリです。LINEなどの既存ツールでは「事務連絡」になりがちな夫婦間の会話を、AIによる「問いかけ」で活性化させます。この市場は「カップルテック」と呼ばれ、世界で73億ドル規模に急成長しています。Riamoはリリース直後から男性ユーザーの47%が自らパートナーを誘うなど高い熱量を生み出し、資金調達も完了するなど順調な滑り出しを見せています。

課題1:グローバル戦略の迷い:
「Day1からのグローバル展開」を掲げ多言語対応でスタートしたが、ふたを開ければ利用者の9割が日本人という現状。海外ユーザーが想定通りに伸びず、どの地域から攻略すべきか戦略を決めかねている。

課題2:地域による好みの違い:
欧米向けにはUIが「かわいすぎて子どもっぽい(Too childish)」と受け取られる一方、アジア圏では可愛いデザインが好まれるなど、地域差に直面。「欧米に振り切るか」「文化の近いアジアから攻めるか」「両取りを狙うか」の3択で悩んでいる。

有識者からの金言:

有識者からの金言

あつた氏からの韓国渡航に関する相談に対し、藤本氏は「韓国のスタートアップエコシステムは非常に活発で、海外からの参入も歓迎している」とし、現地の支援機関やコミュニティへの接続を約束しました。

福田氏は「UIは全パターン作成してユーザーに選ばせればいい」と助言しつつ、「市場規模を追うなら『カップルになる前』の段階からアプローチすべき」と指摘。まずは親日的なタイ市場でのテストマーケティングを推奨しました。

選考評価委員の谷本勲氏(株式会社トムス 代表取締役社長)は、自身を「面倒くさがる男性ユーザーの代表」と位置づけ、「男性が使い始めるには明確なきっかけが必要」と指摘。「妊活や子育てといった、男性も無視できないライフイベントをフックにし、そこに関連するサービスや情報をリコメンドする形であれば、利用する動機付けになるしマネタイズもしやすい」と、男性心理を突いた具体的なユースケースを提案しました。

選考評価委員の田中淳一氏(パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社 取締役執行役員)からは、「自治体との連携も視野に入れるべき」との意見が。「少子化対策や妊活支援の一環として、自治体がカップルの関係構築を支援する動きがある。そうした公共の取り組みと連携することで、信頼性の向上やユーザー獲得につながる可能性がある」と示唆しました。

佐々木氏は「投資家に対して『グローバルに展開する』と約束して資金を集めたなら、マーケットサイズの大きい英語圏から逃げずにやり切るべき。そこで資金を使い果たして失敗したとしても、その経験は次の挑戦につながる」と、起業家としてのスタンスを問う熱いエールを送りました。

松田氏はグローバル展開について「一つのプロダクトですべてをカバーするのは不可能。国や地域、人種によってカップルの在り方は千差万別だからこそ、現地のカップルテックアプリを買収してロールアップしていく、あるいは世界中でハッカソンを開催して現地に合ったものを作らせる、といった『自分で作らない』戦略も視野に入れるべき」と、経営者視点での新たな選択肢を提示しました。

株式会社KNiT:AIでキューティクルを科学する ~毛髪状態を数値化する新サービス~

株式会社KNiT:AIでキューティクルを科学する ~毛髪状態を数値化する新サービス~

3社目は、毛髪のキューティクル画像からダメージを定量的に評価する技術を開発する株式会社KNiTの西本拓磨氏です。

事業概要と挑戦:
美容室などでシャンプーやトリートメントを提案する際、従来は美容師の経験や感覚に頼っていた髪のダメージ評価を、科学的な根拠に基づいて行うためのソリューションを開発しています。具体的には、毛髪のキューティクル画像を独自のAI技術で解析し、ダメージ度合いを「なんとなく」ではなく定量的な数値として可視化します。これにより、顧客一人ひとりの髪の状態に合わせた最適な商品提案や施術が可能となり、美容業界におけるカウンセリングの質的向上を目指しています。

課題1:導入ハードルの高さ:
精度の高い解析には500倍以上の倍率を持つ高価な顕微鏡が必要であり、美容室への導入が難しい。

課題2:ビジネスモデルの構築:
資金調達を進めつつ、安価なデバイス開発や、どのチャネルでマネタイズしていくべきかについて相談したい。

有識者からの金言:

有識者からの金言

福田氏は「高額な機器を売りつけるモデルは厳しい」とし、自身の経験した酸素カプセル事業の例を挙げました。「機器は無料でさまざまな場所(駅やドラッグストアなど)に設置し、解析1回500円といった課金モデルにするか、企業の福利厚生や会員サービスの特典としてサブスクリプションに組み込む方がスケールする」とアドバイス。美容室というチャネルに固執せず、健康意識の高い層が集まる場所への展開を示唆しました。

藤本氏も「サロン専売品を買う層は限られている。多くの人はドラッグストアでシャンプーを買う」とし、ドラッグストアチェーンとの連携を提案。「自分の髪の状態を定期的に健康診断のようにチェックでき、今の状態に合った市販のシャンプーをレコメンドされるなら、多くの人が利用するはず」と、ターゲットとチャネルの再考を促しました。

松田氏は、過去のコンサル経験から「シャンプーの成分でキューティクルの点数が数点変わるレベルの使い分けは現実的に難しいのではないか」と指摘。「その場での解析にこだわらず、美容室で髪を採取して郵送し、後日詳細なレポートを返すモデルで十分価値がある。即日結果が出ないほうが、むしろ本格的な検査としての付加価値が高まるし、レポート返却時に再来店を促すことで美容室のリピート施策にもなる」と、ビジネスプロセスの転換を提案しました。

■イベント総括
すべてのプログラムが終了し、会場は熱気冷めやらぬまま交流の時間へと移りました。

本日のセッションを通じ、藤本氏は「世界基準のスピード感を伝えたかった」と言います。「エコシステムの話をしましたが、最も重要なのは『世界で何が起きているか』、そしてその『スピード』です。特にAIなどの技術革新が著しい分野では、大手にスピードで負ければすぐに市場を奪われます。今回は『週次5〜7%』という具体的な成長目標を示すことで、登壇者の皆さんに良い意味での焦りが生まれ、『早く成長しなければ』という意識が共有できたことが大きな収穫でした」と、グローバルを見据えた基準の引き上げを促しました。

このメッセージを受け、バリューアップセッションに登壇した3社の代表も、それぞれの視点で手応えを感じていました。

株式会社メタクロシスの新井氏は「自分たちが考えきれていなかった海外市場の可能性や、ビジネスモデルの転換について有意義なフィードバックをいただけました。今後はこだわる部分と割り切る部分を見極めながら進んでいきたい」と、柔軟な思考で挑戦を続ける意欲を見せました。

株式会社すきだよのあつた氏は「悩んでいた課題に対し、『その3択ではなく、もっと本質的な解がある』という視座の高いアドバイスをいただき、目の前が開けた思いです。藤本さんのお話にあった『週次5〜7%』の成長を目指し、さらにスピードを上げていきたい」と力強く語りました。

株式会社KNiT の西本氏は「自分たちだけでは思い至らなかった多角的なアドバイスにより視野が広がりました。また、有識者の方だけでなく、他の採択者からも具体的なメーカー情報の共有があるなど、横のつながりによる支援も進みそうです」と、リーグの恩恵を実感している様子でした。

今回は、「スタートアップ=急成長」という定義に立ち返り、世界基準のスピード感を共有する場となりました。藤本氏が提示した「週次5〜7%成長」という具体的な指標は、参加各社が自らの事業スピードを客観的に見つめ直す契機となったようです。本日の学びが今後の事業成長にどう反映されるか、各社の動向が注目されます。

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