アカデミー
変化を恐れず、変革に挑戦せよ!
〜ブラザー工業・小池会長が特別登壇した「第8回スタートアップリーグアカデミー」をレポート〜

第7回スタートアップリーグアカデミー

第8回スタートアップリーグアカデミーが、12月17日に都内で開催されました。

今回はブラザー工業株式会社 取締役会長の小池利和氏(関係者からは「テリーさん」の愛称で呼ばれる)をゲストにお迎えし、時間を拡大して特別セッションを実施しました。これに伴い、今までバリューアップセッションの登壇は2社となっていましたが、今回は1社となるなど、通常とは異なる構成となりました。

冒頭、運営会合長の福田正氏は挨拶の中で、「ミシン屋さんの時代から1兆円規模の大企業へと成長できたブラザー工業、本日はテリーさん(小池氏)から周囲と一緒にどのように会社を作り上げてきたかをお聞きし、スタートアップに必要なマインドや成功の要因について学んでほしい」と述べ、会の目的を共有しました。

■特別セッション「変革に挑戦し続ける100年企業」

1955年に愛知県一宮市で生まれた小池氏は現在70歳。父・四郎氏は一族が経営する「小池毛織」の役員でしたが、自身は「自分の力で人生を切り拓こう」と早稲田大学政治経済学部を卒業後の1979年にブラザー工業に入社しました。2年半後にはアメリカに出向して約23年間滞在。帰国後2年で社長に就任し11年間務めた後、2018年から会長職に就き、約四半世紀にわたりブラザーグループの経営に関わってきました。

ミシンや編み機、タイプライターなどの製品を作ってきた同社が、事業形態を大きく変えてきた歴史を通して、「変化に対応できない企業は世の中に取り残される」と明言。ご自身の経験・見解をもとに、企業が変革に挑戦することの必然性や重要性を語りました。

ブラザー工業株式会社 取締役会長の小池利和氏

Point 1:事業ポートフォリオの柔軟な転換

市場の変化をとらえ、現在の主力事業はレーザープリンターやインクジェット複合機、「ピータッチ」と呼ばれるラベルライターなどの通信・プリンティング、ラベリング分野に移行しました。小池氏は、1984年のロサンゼルスオリンピックでタイプライターのオフィシャルサプライヤーになったことや、当時市場価格が699ドルだったFAXを399ドルという戦略的価格で量販店に展開した成功体験を振り返りました。加えて、歯車やギアモータなどの減速機類、工業用ミシン、工作機械、産業用印刷機器など、多角的な事業展開を行っています。さらに小池氏は「民生用プリンターでの売上の約6割がインクやトナー、ラベルといった消耗品による継続的な収入源であるため、需要が一時的に落ちても急激に赤字転落する可能性が低い」と説明。「それが過去の業績維持につながっており、ポートフォリオの変化や買収による事業拡大を進めつつも、売上規模と利益率は安定した範囲に留まっています」と解説しました。

Point 2:技術的な可能性の探求

プリンターや複合機の世界的な大量展開を背景に、IoTやWi-Fiで顧客と機器を接続して使用状況を把握し、サブスクリプションや提案型サービスを通じて長期的な関係も構築しています。次機種の利用や消耗品の自動配送まで含めた契約型のビジネスモデルを志向することで、単なる売り切りやサードパーティ品の介入を抑え、純正品利用を促進しています。「家庭向けでは、モバイルアプリを核にブラザー製品に関わるコンテンツ販売や消耗品販売、ユーザー間取引などを集約したプラットフォームを立ち上げました。課金モデルで安定した売上を確保しつつ、低いドロップアウト率で成長を実現しています」と述べ、ハードウェア中心からソフトウェアやコンテンツを含むサービス型事業への転換が進む中で、現在はセキュリティ面の強化にも注力しているそうです。

Point 3:グローバル展開における多様性

自社のビジネスの約9割が海外で行われているということから、顧客の価値観や需要が急速に変化していることを常に注視してきたといいます。アメリカ駐在時の経験として、「外国人や女性など多様な人材とチームを組んでグローバル展開を先取りする必要があると考え、プリンターを売り始めて以降、多くの商品や事業に挑戦してきました」と回顧。「新事業や新商品は天才的発明からだけでなく、市場に潜むビジネスの種を既存のもの同士で組み合わせることでも生まれると感じています。諦めず最後まで試行錯誤してきた結果、失敗も多かったけれど、時に成功して現在に至っています」と語りました。

新たな事業に臨む際、最も重視しているのは「自分が感動できるかどうか」。自分自身が惹かれる商品でなければ事業化しないという姿勢です。そして「不便を便利にする」「不便を普通にする」といった発想から価値が生まれ、「単に物を売るだけの一過性のビジネスではなく、練り上げたビジネスプランと顧客がつながる仕組みが大事なポイントになる」と確信を述べました。

Point 4:成長の鍵

小池氏はかつて固形インク方式のインクジェットプリンターの可能性に注力し、大きな損失を出し、会社に大きな迷惑をかけた経験を明かしました。しかし、失敗後も同じ技術をTシャツ印刷に応用し、ガーメントプリンターを市場に投入することで挽回を図りました。また、白インクを含む新しいインクを開発し、工業用ミシンのチャネルを活用することで数百億円規模のビジネスに発展させました。このような事例から、成長の鍵になり得るものは「新しいことを素早く試す姿勢にあり、完成度を追い求め過ぎてタイミングを逃さないこと」だといいます。加えて、「情熱を持ってやり切れる人がいること、そして顧客にとって説得力のある合理的な価値提供と、コンテンツを伴ったビジネスプランで顧客とつながることが重要だと認識しています」と語りました。

Point 5:失敗を許容する企業文化

失敗を恐れることなくチャレンジする風土を築くことが、経営トップの役割であると小池氏は言います。「ビジネスは完全ではなく、運の要素があります。運を引き寄せるには、成功確率を高める継続的な努力が必要であり、そのためには働きづめになるのではなく、常に考え行動する習慣を自然に身につけること」が大切だと説きました。その習慣が定着すれば、日々の努力も仕事も負担に感じず、困難を乗り越えた先の成功が、より大きな「楽しみ」や「喜び」として感じられるようになるといいます。「私自身、仕事を長く続けるために明るさ・楽しさ・元気さを大切にしつつ、周囲への配慮も忘れずに人生を全うしたいし、従業員にもそのように変わってほしい」と結びました。

ブラザー工業株式会社 取締役会長の小池利和氏

まとめ

小池氏の講演後、事務局より当日の出席者である運営会合メンバー、選考評価委員、ゲスト、支援機関の紹介が行われました。採択者からは自己紹介と合わせて、「失敗を恐れずに新たな挑戦を続ける姿勢に大いに共感し、大変勉強になりました」「リーダーの考え方や、過去の失敗や成功を言葉で語れることに非常に感銘を受けました」「さまざまな失敗事例のお話を伺って、勇気づけられるとともに、深く考え抜いた上で施策を実行することの大切さを学ばせていただきました」など、講演への感想と感謝の言葉が次々と寄せられました。

福田氏は「今日は(時間が限られていて)個別にゆっくり話すのは難しいかもしれないけれど」と前置きした上で、「テリーさんは面白い話であれば、積極的にスピード感を持って対応してくれるので、ブラザーの大きなプラットフォームを通じて、今後の協業や技術開発の機会を粘り強くお願いしていこうと思っています」と述べ、採択者への強力なサポートを宣言しました。

■バリューアップセッション

株式会社SonicAI:製造現場の搬送・検査工程の自動化AIエッジデバイスの開発

株式会社SonicAI:製造現場の搬送・検査工程の自動化AIエッジデバイスの開発

今回の登壇者は、株式会社SonicAI代表取締役CEOの田中寛之氏です。

事業概要と挑戦:
2024年6月創業の株式会社SonicAIは、製造業向けに目視検査を自動化するAI画像処理システムを提供しています。田中氏は株式会社キーエンスでの技術営業や、アメリカのコンサルティングファームで国内外の製造業界の経営課題に関わってきた経験を通じ、同業界を取り巻く「人材不足・品質管理・トレーサビリティ」という三つの課題を認識。これらを解決すべく研究・開発を進め、2025年10月にベータ版を発表しました。コンセントに接続すれば非自動化ラインやスタンドアローン検査台ですぐに使用でき、良品を読み込ませるだけで機種登録が完了、誰でも10秒で検査設定を終えられる製品を実現しました。

学習済みモデルはリアルタイム映像を用いて約0.03秒後に異常個所を検出し、既知の不良だけでなく事前登録のない特徴を持つ潜在的な不良もヒートマップで示して認識可能です。同システムは小型部品向けにカメラ等を用いて多面を撮像する用途だけでなく、自動車のエンジン部品などのねじ穴内部検査やワイヤー破裂の組付け検査、エアベッドのマットレス内の異物混入検査など多用途に対応しています。

ターゲットは中小企業が中心ですが、人の検品作業をターゲットとしつつも、受注ロットの多寡には左右されないプロダクトであり、中小企業だけでなく半自動化の工程がある大企業の製造ラインにも適用できるため、大企業の製造ラインにも適用できるため、積極的に展開していく方針です。また、ラベルの折れ曲がりや湾曲で読み取りにくかったバーコードやラベルも即座に読み取れることから、食品、物流、建設など幅広い分野での活用が見込まれています。愛知県商工会から初月約1,000万円の受注を獲得したこともあり、東京都内の開発拠点に加えて名古屋オフィスを開設し、市場を拡大していく計画です。

有識者からの金言:

有識者からの提案

ブラザー工業取締役会長の小池氏は、画像認識による品質差の解消自体に新規性はないため、成功の鍵は「広範なデータを集めて学習させることで精度向上と省人化・自動化を図り、その効果を現場で実践・実証して顧客の信頼を得ること」だと指摘。そのために「AIを徹底的に使いこなし、カスタマイズしてデータベースを大量に与え、賢く育てることで差別化を図ってほしい」と投げかけました。

選考評価委員の平英晴氏(株式会社クラッセキャピタルパートナーズ 会長)は、田中氏のプレゼンから「自信を持ってビジネスを進めていることが伝わってきた」と評価しつつ、「本物を見る」重要性について語りました。北大路魯山人の陶器鑑定士が、贋作を見ず本物だけを徹底的に見続けることで「さじ加減」という真贋を見極める感覚を養うのと同様に、良品を徹底的に学習させるSonicAIのアプローチには価値があると話しました。その一方で、「僕はDXの本質を自立化と未来予測だと考えていますが、その過程では失敗や心の痛みが出てくることが多い。特に経済的・心理的にダメージを受けて、心が折れてしまう場合があります」と危惧。今後、田中氏がそのような経験をした際の参考になるようにと、「これまで数え切れない失敗を経験した小池氏に、どのようにそれを乗り越えて克服してきたのか、周囲のサポートや助けがあったのかなどの体験談をお聞きしたい」とリクエストしました。

平氏の質問を受けて小池氏は、若い頃に経営トップを目指して失敗を恐れず経験を積もうと考え、継続的に挑戦を続けた結果、偶然の幸運や周囲の期待が重なって成功につながったと回顧。大きな損失が出れば精神的なダメージが大きいことも認識しながら、「反省と同時に前向きな姿勢で改善を図ろうとしてきた」と答えました。そして、万が一失敗した場合は「ベンチャーキャピタリストの評価が間違っていたと割り切り、他人のせいにすることも許容してよい」とし、「あらゆることを真面目に重く受け止めすぎると、行動が萎縮して悪い発想ばかりになってしまうので、ある程度の開き直りの気持ちを持たなければやっていけない」と助言しました。

続けて福田氏からは、「結局は“なるようになる”だけでは不十分で、縁やつながり、お客さんや仲間との交流を積極的に続けることが大事。それによって自ら学び、成長して恩や縁をつかむ機会が生まれる。失敗を恐れて縮こまるのではなく、交流の輪を広げることを意識すれば成功の可能性は高まるということです」との見解が添えられました。

同じく選考評価委員の松田信之氏(株式会社Booster Knob代表取締役)は、10年ほど前にコンサルティングをしていた際、同様のソリューションを探し求めた経験があることから、「現在、御社が提供している技術やアプローチが、その頃と比べてどこが決定的に違うのか教えてほしい」と質問しました。田中氏は、技術者側の視点では「生成AIの発展はトランスフォーマー(Transformer)モデル(自然言語処理などで高い性能を発揮する深層学習モデルの一種)の導入で加速し、その技術が画像処理にも応用されているので、ここ数年より直近半年での進展が著しい」と回答。また、顧客視点では「サービス導入時の工事や運用負担を大幅に軽減できることや、AI活用によって細かなプログラミングが不要になり、誰でも容易にシステムを構築できる点が大きな変化だと思います」と説明しました。

■イベント総括
アカデミーの最後に行われた交流会では、小池氏の元に出席者が殺到。名刺交換の順番を待つ長い行列ができていましたが、終了時間が迫る中でも、小池氏は一人ひとりに丁寧に対応されていました。

株式会社SonicAIの田中氏はバリューアップセッションに登壇してみて、「当社のサービスが支援者の方々からご興味やご評価をいただけたことは大きな自信になり、さらに成長すべき契機になりました。その一方で、現行のハード・ソフトのモデルは大企業や一部製造現場へ容易には横展開できないので、その市場に中長期的にどう参入していくかが課題です。小池会長との対話から得られた示唆を踏まえて、今後解決していきたいと考えています」と語りました。

福田氏は「このアカデミーのセッションは技術的な助言をする場ではなく、先輩方の言葉や姿勢を後輩たちが思い出し、掘り返して“タイムカプセル”を埋めるような機会だと思っています。テリーさんの一つ一つの話が実践に基づく有益な示唆となって、採択者の皆さんの未来を築く手助けになると感じていますので、ぜひ参考にしてほしい」と期待を寄せ、会を締めくくりました。

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