〜事業連携の新たな可能性が生まれた「第4回スタートアップリーグアカデミー」をレポート〜
10月22日、東京都内で第4回スタートアップリーグアカデミーがハイブリッド形式で開催されました。
アカデミー冒頭では、現地参加の採択者14社がそれぞれ自己紹介を行いました。
■セッション マーケティング戦略について
今回はリーグ初の試みとしてゲストが登壇。「マーケティング戦略」をテーマに、運営会合長の福田正氏に加え、株式会社マーケットエンタープライズ代表取締役社長の小林泰士氏がセッションに登場しました。
福田氏からは、まず現代におけるマーケティングの考え方についての話がありました。「数十年前のマーケティング理論は、SNSなどが普及した現代では通用しなくなっている。特にBtoC(消費者向けビジネス)をいかにつかむかが重要で、BtoCを押さえていればBtoB(企業向けビジネス)にもつなげやすい」と指摘しました。
また、スタートアップ支援のあり方についても触れ、「単発のピッチコンテストだけでなく、長期的に伴走し、根拠のある仮説に基づいた事業計画を支援していくべき」との考えを示しました。 そして、「今回登壇する小林社長は、20代で上場を果たし、プラットフォームビジネスを展開している。彼の考え方や、ゲストとして参加している他の経営者との事業コラボの可能性を探ってほしい」と参加者に呼びかけました。
小林氏からは、マーケットエンタープライズ社の事業内容や成長戦略について詳しく紹介。同社はリユース事業を主軸に、メディア事業、モバイル事業などを展開。23歳で個人事業として創業後、9年でマザーズ上場、その後、東証プライムへ上場を果たしました。
リユース事業では、ネット買取サービスや、地域情報サイト「ジモティー」と連携したマッチングプラットフォーム「おいくら」などを展開。特に「おいくら」は 283の自治体と連携し、粗大ごみ削減に貢献している事例を紹介しました。「リユース市場は3.2兆円規模に成長しており、今後も拡大が見込まれる。特に、空き家問題や人口動態の変化、SDGsへの関心の高まりなどが追い風となっている」と市場の可能性を解説しました。
また、M&Aによる事業多角化や、データ分析に基づいたライフサイクル転換期の顧客ニーズ把握、海外展開(特にアフリカ市場)の状況など、具体的な戦略についても語られました。最後に、「売上1000億円、時価総額1000億円を超えるいわゆる“ユニコーン企業”の創業社長は国内に約40社。彼らに共通するのは、投資、M&A、ビッグマーケットでの展開、コングロマリット化など。自社の強みと市場を見極めることが重要」と締めくくりました。
■バリューアップセッション
後半は、採択スタートアップ2社によるピッチと、それに対する運営・評価メンバーからのアドバイスセッションが行われました。
株式会社Blue Farm:お茶で企業も「健康に」
今回1人目の発表者として、300年以上続く静岡の茶農家であり、Blue Farm代表取締役の青木健太氏が壇上に上がりました。
事業概要と挑戦:
耕作放棄地になりつつある茶畑のサステナブルな機能(CO2吸収、生物多様性保全など)に着目。企業がオフィスで利用する飲料を同社の有機栽培茶に切り替えることで、その企業専用の管理茶園を提供し、環境貢献度を可視化・NFT(ブロックチェーン上で発行される、複製できないデジタル証明書)化して報告する「ChaaS(茶畑アズ・ア・サービス)」を展開。将来的には電力創出や障害者雇用創出なども目指す。
課題①導入に向けた説明コストの高さ:
インフラ系企業への導入が進む一方、「導入する際に説明に時間がかかる」「最後の一押しが難しい」といった営業面での課題を抱えている。
課題②認知度の低さ:
さらなる事業拡大のためには、「認知度の向上が急務」であると考えている。
課題③他業種との連携可能性:
ファッション、宗教、アイドル、ゲームなど、「既存のターゲット以外にも需要が広がっているが、それを捉えきれていない」状況にある。
有識者からの金言:
有識者からは、事業のスケール戦略に関する多角的なアドバイスが送られました。
福田氏は、現在のボトル飲料販売モデルだけで計画通りの規模に到達することの難しさに言及。「20億を売り上げようと思っても、120円だと1,600万本ぐらい売らないといけない」と具体的な数字を挙げ、個別の営業で積み上げることの困難さを指摘しました。その上で、単なる「連携」ではなく、「売ってくれるパートナーを拾わないといけない」と販売チャネル確保の重要性を強調し、「大手飲料メーカー等、販売力のあるパートナーとの連携を模索すべきでは」と提案。カウンターカルチャーを目指す姿勢は理解しつつも、現実的な成長戦略の必要性を訴えました。
運営会合の岡本祥治氏(株式会社みらいワークス代表取締役社長)は、大企業のサステナビリティ担当者が抱える課題感に触れ、「エンタープライズ企業ではサステナの予算はかなり小さい」と指摘。予算が少ない「サステナビリティ推進室」にアプローチするだけでなく、「イベント利用時の利便性(在庫管理、ゴミ問題解決など)」や、法律で義務化され予算が組まれている「障害者雇用」といった「別の予算」、つまり顕在化している課題にフォーカスしてはどうかと、より具体的な営業戦略を示唆しました。
選考評価委員の平英晴氏(株式会社クラッセキャピタルパートナーズ会長)は、「提供価値の中で、人材活用(障害者雇用創出)は、大企業がコストをかけてでも解決したい課題であり、(営業面での課題の)突破口になる 可能性がある」と述べ、サービスを広くアピールするだけでなく、特定の強みで一点突破することの重要性を指摘。さらに、「300年続く茶農家という歴史的背景は大きなクレジットになる」と、そのストーリー性を活かすよう助言しました。
また、運営会合の佐々木喜徳氏(株式会社ガイアックス執行役員)は、競合製品との差別化について、「『飲むと株価が上がる』というロジック(ESG評価向上による企業価値向上)は面白い」としつつも、それだけでは伝わりにくいと指摘。むしろ「イベントの利用において非常に便利である」といった、ゴミ問題の解決や在庫管理にもつながる「サステナブルで便利な」即物的な価値にも向き合うことの重要性を述べ、付加価値の明確化と分かりやすさを求めました。
株式会社AtoJ:少額未払いをODRで解決する『ワンネゴ』
続いて株式会社AtoJ代表取締役COOの冨田信雄氏が登壇しました。
事業概要と挑戦:
少額(100万円以下)・大量に発生する未払金問題(医療費、家賃、フィットネス会費、通信料など)に着目。オンラインで紛争解決を行うODR(Online Dispute Resolution)プラットフォーム「ワンネゴ」を提供。申立は名前・金額・連絡先入力のみ、相手方は選択肢タップで回答可能、合意文書も自動生成。法務大臣認証の裁判外紛争解決手続機関として、中立・公正な立場から解決を促進する。
すでに月間6000件超の申立があり、解決率は50%超。法務省の実証事業にも技術提供している。
課題①連携強化による導入促進:
各業界団体や企業との連携を強化し、サービスの導入をさらに促進していく必要がある。
課題②ODRの社会インフラ化:
ODR(オンライン紛争解決)という仕組み自体を、社会的なインフラとして定着させていく必要がある。
課題③スピード感のある事業展開:
競合が出現する前に市場での地位を確立するため、スピード感を持った事業展開が求められる。
有識者からの金言:
ODRという新しい市場の可能性に対し、具体的な連携やリスク管理に関するアドバイスが集まりました。
ゲストの小林氏は、自身のリユース事業や通信事業での未払い問題に触れ、「うちも困っています。具体的な連携の可能性を検討したい」と強い関心を示しました。
平氏は、金融機関や債権回収会社(サービサー)が持つ既存の少額債権市場との連携の可能性を提示する一方、「弁護士法との兼ね合いなど法的正当性(エリジビリティ)の担保は継続的に重要」であり、「産業障壁をどう築くか」という視点の重要性を強調しました。
岡本氏は、フリーランス市場における企業による未払い問題だけでなく、逆に「フリーランス新法」を盾にしたフリーランス側からの「不当な請求」といった、プラットフォーム側が抱える問題にも言及。「健全な取引を促進する社会インフラとなる可能性」に期待を寄せました。
佐々木氏は、競合対策として「業界団体等との連携によるデファクトスタンダード化や技術的優位性の確立が重要」と述べました。
選考評価委員の小林寛幸氏(デロイト トーマツ ディープスクエア株式会社 代表取締役社長)は、テクノロジー活用の観点から、「ブロックチェーンみたいなものももし使えると非常に面白い」と将来的な可能性に言及。さらに、AIを活用した営業アプローチについて触れ、「(申込みを待つだけでなく)事前にAIで自動でデータを抽出してきてしまえば、営業活動することなく、データをどんどん累積できる」として、AIによるプロアクティブなデータ収集とアセット化によって提案件数を増やしていく開発アプローチも検討してみてはどうかと提案しました。
また、福田氏は、サービスの普及に伴うリスクとして「なりすまし・詐欺」の可能性を指摘。「今のうちから『このマーク以外は偽物』といったブランディングなどの戦略を」と提案し、大手プラットフォームとの連携による信用力活用の有効性も示唆しました。競合他社が現れる前に事業を軌道に乗せることがポイントであると念押しすると、冨田氏も「(競合が)参入をためらわせるように、この2~3年でどこまで行けるかだと思っています」と力強く応じました。
■イベント総括
第4回アカデミーも、トークセッション、バリューアップセッション共に活発な議論が交わされ、盛況のうちに終了しました。参加者からは今回のアカデミーについて、以下のようなコメントが寄せられました。
株式会社Blue Farmの青木氏は「自分が思っていたところから全然違う意見もいただけたので、そこは持ち帰って解釈し直さないといけない」「全ての意見が参考になりました」と、有識者からの多角的なフィードバックを通じて、自社だけでは気づけなかった新たな視点や論点を発見できた様子でした。
もう一方のバリューアップセッション登壇者の株式会社AtoJの冨田氏は「我々のサービスは未払い側・請求側の両者をつなぐサービスにしたいと思っています。支払う意思はあるものの後ろめたさ等から向き合えずにいる方にとっても、ワンネゴはオンラインで円満な解決を促す助けとなります。(ゲストの)小林社長から『うちも困っています』と言っていただけたのは、やっぱりそこに向けて届けていかないといけないと思うきっかけにもなったので、すごく良い時間でした」と語り、事業への手応えとODRの社会的意義を再確認した様子でした。
トークセッションに登壇した小林氏からは、リーグ全体について次のような感想をいただきました。「参加者のビジネスモデルがユニークだと感じました。バリューアップセッションは、デロイトさんと総務省さんが絡んでいて、時間をオーバーしてでも多角的に具体的なアドバイスをされる構造になっており、短時間で幅広い学びが得られる場だと感じました」。また、起業家として参加する意義については、「先輩起業家の話は(スタートアップの皆さんにとって)響きやすいのかなと改めて感じました」と、自身の経験を伝えることの重要性を語りました。
ゲストを招いて支援の幅をさらに広げるICTスタートアップリーグ。今後もさまざまな角度からのサポートを経て、採択者がどのように成長していくのか、引き続き注目が集まります。