アカデミー
未来を切り拓く出会いが生まれた!
〜「第2回スタートアップリーグアカデミー」をレポート〜

ICTスタートアップリーグ採択者限定イベント

第2回スタートアップリーグアカデミーが、9月19日に都内で開催されました。

はじめに、事務局から補助金追加予算申請についての案内がありました。続いて、運営会合長の福田正氏から、先日阪神タイガースがセ・リーグを制覇したこともあり、大阪出身である福田氏が大阪に来た友人によく披露するという、阪急阪神ホールディングスにまつわる興味深いエピソードが紹介されました。

かつて関西のプロ野球は、大阪私鉄が強い影響力を持っていました。阪急電鉄、南海電気鉄道、近畿日本鉄道、そして現在も阪神タイガースの親会社として残る阪神電気鉄道。これらの私鉄系球団は、主にパ・リーグの創成期から長きにわたって主要な勢力として存在し、互いに切磋琢磨してきた歴史があります。

中でも、阪神電気鉄道と阪急電鉄は、 2006年に経営統合するまで、鉄道や百貨店、不動産など多くの事業で激しく競い合っていました。特に大阪(梅田)から神戸(三宮)にかけては、両社の鉄道が並走する直接的なライバル関係でした。
しかし、経営統合した現在は、状況が一変。かつての縄張り争いから連携を強めることで、鉄道での乗り換えがスムーズになるなど利用者の利便性を高め、グループ全体の価値を向上させる取り組みを進めています。
この変化に触れ、福田氏は「昔のライバル関係を知る大阪人には想像できなかった仲の良さだ」と語り、「いかに未来を切り拓けるような企業と組むことができるかが鍵となる。このリーグで、慣習を打ち破るような出会いを見つけてほしい」と力強いメッセージを参加者に送りました。

今回は採択された2社によるバリューアップセッションと交流会が中心に行われました。

■バリューアップセッション

株式会社KiAI:誰もが平等に情報を得られる未来の実現

リーグアカデミーの口火をきったのは、茨城大学発のディープテックスタートアップである株式会社KiAI(2025年5月に社名変更:旧社名DEVELOPTONIA)。世界銀行やOECDなどでエコノミストとして豊富な経験を持ち、データサイエンスとAI技術に精通するCEOの大場一雅氏が登壇しました。

株式会社KiAI CEOの大場一雅氏

事業概要と挑戦:
「Global Return for Everyone(すべての人にグローバルなリターンを)」をビジョンに掲げ、途上国や新興国に特化したビジネス情報収集サービス「KiAI」を開発・提供しています。新興国では、正確で信頼できる情報が少なく、現地の企業や行政が迅速な判断を下しづらい現状があります。現地のさまざまな情報(政府発表、統計情報、現地メディアなど)をAIがリアルタイムで収集・分析・翻訳・要約し、誰もが信頼できる国際ビジネスインテリジェンスを提供することを目標にしています。これにより、新興市場への参入を容易にし、持続可能な経済成長と地域活性化に貢献します。

課題:
KiAIは、サービスのさらなる成長と普及に向けて、以下の3つの課題に取り組んでいます。

・新興国における信頼性のある情報源(ネットワーク)の拡大
近年、アフリカや中東、南アジアをはじめとする新興国への事業展開に注目が集まっています。しかし、これらの地域では「公的データや市場統計が整備されていない」「メディア報道が偏向・検閲される場合がある」「SNSや現地ニュースが多言語・多様で分析が困難」「現地事情の把握に時間とコストがかかる」などの情報収集に関する構造的な課題が存在します。新興国における信頼性の高い情報源を拡大していく必要があります。

・サービス導入のための連携
大手総合商社や官公庁、政府系金融機関などの現場で導入され、マーケット分析や外交・安全保障分野での活用が進んでいます。実際に導入された企業では、従来数週間かかっていた市場調査・報告書作成の時間が90%削減された事例もあります。今後は、アフリカ・中東・ASEAN諸国への展開を加速し、企業の海外進出支援、国際協力、災害対策や人道支援分野への応用も見据えており、協力いただけるパートナーを探しています。

・クラウドのGPU確保を急ぎたい
大規模なデータ解析やAI開発には高性能な計算能力が不可欠。時間とコストを効率的に管理するため、まずはA100/80GBのGPU1基の確保を急いでいます。

有識者からの金言:
運営会合長の福田氏は「当座は日本企業をターゲットにする日本語✕多言語展開だと思うが、将来的には多言語✕多言語で勝負するべき」とKiAIのポテンシャルに期待を膨らませる一方で「情報のファクトチェックに関しては、AIだけではリスクが高い」と指摘。新興国における信頼ある情報源として旅行会社のネットワーク網の活用をアドバイスした。

選考評価委員の灰田俊也氏(IACEトラベル 取締役専務執行役員)

これを受けて、選考評価委員の灰田俊也氏(IACEトラベル 取締役専務執行役員)は次のような具体的な助言をしました。
「現地の通信社やパブリックの情報、既に進出している日系企業が持つ情報、現地で流通している生情報などを上手に組み合わせることで、サービスの信頼性は高まる」
「旅行業界のランドオペレーター(旅行会社から委託を受けて、現地での旅行サービスの手配や管理を行う専門会社)を活用するのは有効な手段だ」

これらの意見を踏まえ、KiAIはサービスの信頼性向上と事業拡大に向け、さらなる連携を模索していくといいます。

株式会社CraftX:採用を変革するAIエージェント

2人目の登壇者は、大手コンサルティングファームから独立し、2023年に株式会社CraftXを創業した代表取締役CEOの座小田優氏です。同社は、無料で利用できる「採用AIエージェント」を提供するスタートアップです。

株式会社CraftXを創業した代表取締役CEOの座小田優氏

事業概要と挑戦:
「採用をアップデートし、偉大な企業づくりを支援する」というミッションを掲げているCraftX。今回のスタートアップリーグでは、採用戦略AIエージェントの開発に取り組んでいます。
具体的には、採用に関するビッグデータの収集、AIエージェントのプロダクト開発、そしてそのプロダクトを利用した企業での実装事例の創出などを進めています。最終的な目標は、組織課題を解決するグローバルプラットフォームの構築です。

課題:
座小田氏は、事業を加速させるための主な課題として以下を挙げました。
・独自データベースを構築し、競合優位性を確立すること
・サービスを導入・検証してくれるパートナーとの連携
・知見を持つプロフェッショナルとの連携
・海外展開の検討(中東アジア、アメリカなど)
・最速拡大に向けた最適なファイナンス戦略の設計
特に「サービス導入・検証パートナー」と「知見を持つプロフェッショナル」との連携を強く求めており、リーグを通じて新たなセッションが生まれることに期待を寄せました。

有識者からの金言:
CraftXのセッションに対し、この日は採択者のバリューアップ支援をさらに強化するため、事務局が特別に招聘した日本エンタープライズの杉山浩一氏がアドバイスを送りました。リーグアカデミーでは今後も、運営会合や選考評価委員といった枠にとらわれず、事業に精通した外部の専門家を招いていく予定です。
杉山氏はCraftXの発表を受けて、面接でAIが応募者の声のトーンや話し方、表情やジェスチャーを分析し、「ただ緊張しているだけか」「嘘をついているのか」まで見抜くような機能の実装を提案。「ユニークで画期的なシステムこそが差別化につながる」と語りました。
また、選考評価委員の小林寛幸氏(デロイト トーマツ ディープスクエア株式会社 代表取締役社長)は「採用戦略の基盤がない企業へのアプローチでは、既存の人材紹介会社やエージェントと連携することもありうるので、親和性の高いインターフェースにしたほうがよい」と助言しました。

日本エンタープライズの杉山浩一氏と選考評価委員の小林寛幸氏

最後に、運営会合長の福田氏は「オンリーワンや、他社には絶対に負けない、飛び抜けたもの」の必要性を説き、「採用活動のどの部分をAIが代替し、さらに良い結果を出せるのか。その価値が伝わるよう、徹底的にシステムを磨き上げていってほしい」と締めくくりました。

■イベント総括
バリューアップセッション後の交流会では、参加者たちが名刺交換を交わし、支援に関する活発な議論が繰り広げられました。

バリューアップセッションを振り返り、株式会社KiAIの大場氏は、「これまでのアクセラレーションプログラムやメンタリングとは異なり、このリーグのセッションは飛び抜けて価値が高かった」と語りました。
その最大の理由は、「具体的なアクションやコネクション、そしてコラボレーションがその場で生まれ、すぐに話がまとまるスピード感」にあるといいます。
さらに、大場氏はAIだけではエンタープライズ向けの高単価サービスとして成り立たせるのが難しいという課題を抱えていたことに触れ、「どう価値を高めるか試行錯誤する中で光が見えずにいた。こんな解決策があったのかと、まさに目から鱗でした」と驚きを表現しました。
交流会では、IACEトラベルの灰田氏との出会いについて「一方だけが恩恵を受けるのではなく、お互いの企業の価値を高め合える、Win-Winの関係になれる素敵な出会いでした」と笑顔で話しました。

続いて、株式会社CraftXの座小田氏は、「非常に刺激的な時間だった」とセッションを振り返りました。
社内で事業を進めていると、肯定的な意見に偏りがちで視野が狭くなることがあるとしながらも、「今回、ビジネスに精通した方々から厳しいご意見をいただけて大変ありがたかった」と述べました。この経験から、「今一度自分たちの考えを見つめ直し、どうすれば価値が伝わるかを追求していきたい」と語っています。
特に大きな学びとなったのは伝え方です。プロダクトの説明には「アハ体験」のような明確で具体的なイメージを持たせることが重要だと感じたそうです。
交流会では、同世代の経営者との対話から、サービス作りのヒントとなるアイデアを得るなど、多くの収穫があった様子でした。

選考評価委員の灰田俊也氏は、バリューアップセッションの目的について、「単なるアイデア出しではなく、どうやってビジネスを拡大するかという、よりリアルなディスカッションの場」だと語りました。
さらに、「具体的なビジネス上の結びつきで後押しするプログラムは、他と比べてもなかなか見られない」と述べ、この推進力とエネルギーこそがスタートアップリーグの大きな特徴だと評価しました。灰田氏は、他の採択者にもこの機会を積極的に活用し、「一回転、二回転とどんどん進めてほしい」と期待を込めてメッセージを送りました。

選考評価委員の小林寛幸氏(デロイト トーマツ ディープスクエア株式会社 代表取締役社長)は、採択者に向けて次のように助言しました。
「一人でビジネスを進めるのには限界があります。社長はすべてをこなさなければならないと思われがちですが、何か一つに特化することも重要です。その専門性を軸に仲間が集まるネットワークを持つことで、事業はより大きく成長します」
今日の2社のバリューアップセッションを踏まえ、小林氏は「オンリーワンを目指すこと、そして事業の尖った方向性を、日本や海外、またはドメインの観点でどう広げていくか。成功への道は決して画一的ではありません」と語りました。そして、アカデミーでの交流を通じて親和性や刺激を得てほしいと期待を述べました。

第2回リーグアカデミーでは、今回も新たな挑戦が次々と生まれ、未来を切り拓く突破口が示されました。この取り組みを通じて、日本のスタートアップをさらに盛り上げていくことが期待されます。

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