アカデミー
世界で勝つスタートアップになる!
〜“評論”ではない具体的な支援が生まれた「第1回スタートアップリーグアカデミー」の熱狂をレポート〜

ICTスタートアップリーグ採択者限定イベント

第1回のスタートアップリーグアカデミーが9月5日、東京都港区のCIC Tokyo(虎ノ門ヒルズ内)で開催されました。

事務局からスタートアップリーグの趣旨が説明された後、運営会合長を務める福田正氏は「まず今日はみんなの意思を統一していきたい」とあいさつ。日本のスタートアップの現状に触れつつ、「これまで日本経済は失われた30年と言われているが、スポーツリーグはこの30年で大いに発展してきている。このリーグという成功事例を参考に日本から世界で戦っていけるスタートアップを生み出していきたい」とリーグ創設の意図を参加者に改めて説明しました。

続いて「運営会合メンバーや選考評価委員はこのプロジェクトの理念に心から共感し、自ら手を挙げて集まってくれた大切な仲間です。そして、今回採択された皆さんも、私たちにとって同じ仲間だと思っていますので『採択されたから、何かをしてもらう』という受け身の姿勢ではなく、一緒に世界で戦っていけるスタートアップを生み出す側の人間として参加してほしい。」と語りかけました。

また、福田氏は予定されていた「公開メンタリング」の名称変更を急きょ提案。「内容もよくあるメンタリングのように、ただアドバイスをもらって終わりにはしません。『これならば自分も受けたい』と確信できる価値ある機会であることが伝わる名称にしたい。」とセッションの後に名称を変えることを予告しました。

■セッション 世界で勝つスタートアップになるためには

■プロフィール
名倉 勝
CIC Institute ディレクター
一般社団法人スタートアップエコシステム協会 副代表理事
東京科学大学 特任教授
核融合工学で博士号を取得後、文部科学省に入省し、大学発スタートアップ政策を担当。マサチューセッツ工科大学System Design and Management Programに留学した後、経営コンサルティング、ベンチャーキャピタル等の勤務を経て、日本最大級のイノベーションセンターであるCIC Tokyoの立ち上げに参画。現在は、CICの実施するスタートアップ支援プログラムやエコシステム構築事業の責任者を務める。2022年に一般社団法人スタートアップエコシステム協会を共同設立し、現在は副代表理事を務める。東京科学大学の特任教授も兼務。

2025年度第1回の講演者は運営会合メンバーの名倉勝氏。世界の現状を知る名倉氏だからこそ伝えられるメッセージが採択者たちに送られました。

第1回のリーグアカデミー

Point 1:スタートアップの成長パターン

まず名倉氏が採択者に問いかけたのは「日本チャンピオンになりたいですか? それとも世界チャンピオンになりたいですか?」ということでした。

「国内型スタートアップ」「グローバル型スタートアップ」「ブートストラップ型スタートアップ」「一般創業」といったタイプの企業の成長曲線を比較した資料をもとに、「国内型スタートアップ」は少し資金調達をして成長するものの、国内市場で頭打ちになってしまうと説明。「一度日本チャンピオンになってしまうと、サービスやプロダクトが国内向けに特化しすぎて海外で売れなくなるリスクがある」と指摘します。それゆえに世界を目指すことが困難になるということで「まずは国内チャンピオンになるという考え方だと世界チャンピオンになれないことがある」と結論付けました。

「重要なのはどこに目標を持って起業するか、個々の採択者が成長ストーリーを思い描くことだ」と名倉氏は強調しました。

Point 2:国内外のエコシステム

世界トップクラスのイノベーション・エコシステムリサーチ・アドバイザリー機関の「Startup Genome」によると、東京(日本)のエコシステムは2025年の評価で世界ランキング11位。これに対して名倉氏は「日本が経済規模に比してスタートアップエコシステムが未発達と言いたいのではなく、他の国ではその国なりにスタートアップエコシステムが成長していることを理解することが重要。そして、ビジネスやプロダクトによっては日本国内で事業を伸ばすことだけが正解とは限らない」と言います。

海外のスタートアップの声を聞く中で、彼らが重視するポイントの一つは資金調達環境とのことです。実際に、先述のランキングでロンドン(イギリス)はシリコンバレー(アメリカ)とニューヨークに次いで3位ですが、イギリス発のスタートアップでも資金調達のために拠点をアメリカに移すほど。データによると多くのイギリスのスタートアップが資金調達を理由に国外への移転や拡大を検討しています。

次に名倉氏は日本と同じようにエコシステムとしては小さい地域について紹介。北欧のエコシステムを視察し、数多くのスタートアップが生まれてきたと説明。「Wolt(フィンランド)、Spotify(スウェーデン)、Skype(北欧出身者により創業)といったスタートアップが経済規模の決して大きくない国から輩出されて1兆円以上の時価総額やエグジットを達成している。自国の市場規模が小さい北欧などでは、最初から世界を目指していることが決定的な違いだ」と名倉氏は述べました。

さらに、「世界で戦う、世界で勝つためには英語は標準装備しておく必要がある」と助言。名倉氏が参加した海外のスタートアップカンファレンスでは、英語圏以外でもすべてのカンファレンスで発表やパネルディスカッションが英語で行われたといいます。

Point 3:海外展開に必要なチーム編成

続いて名倉氏は、創業から拡大期に入るまでの期間を調査したデータを提示。1人で起業した場合、拡大期に入るまでに平均で約5年以上かかりますが、複数人で創業すると3年以内で拡大を始めるというものです。さらに興味深いことに、3人、4人よりも2人のほうが良い結果を出せているそうです。この結果から「創業チームは慎重に選ばないといけないし、人を巻き込む力がなければ苦労することになる」と説明しました。

また、近年、注目されているのが多様性。世界の市場を狙うために創業メンバーに多様な国籍の人材を入れるスタートアップが増えており、また、アメリカのユニコーンのうち64%が移民や移民2世が創業チームにいるというデータが示されました。

世界チャンピオンを目指すことを前提に創設された日本のスタートアップでは経営チームに海外人材を入れていることを紹介。改めて採択者に「皆さんにはこれからどういう人たちを仲間にしていくか、どういうチームを作ったらいいのかを考えてもらいたい」と伝えました。

まとめ

セッションの結びとして、名倉氏は採択者に対し、以下の3点を改めて問いかけました。「どのような成長を望んでいるのか?」「成長ストーリーに最適な国を選んでいるか?」 「共同創業者や経営陣を戦略的に選んでいるのか?」そして、「理想的なメンバー構成にしていくことは、どのスタートアップにとっても簡単なことではない。そのために、このスタートアップリーグがあり、多くの人が手を差し伸べようとしている。この支援を通じてさまざまなものを獲得してほしい」とエールを送り、セッションを締めくくりました。

■バリューアップセッション(旧公開メンタリング)

当初予定していた「公開メンタリング」の名称変更を行う上で、アカデミー開催の前に事務局で8つの候補を作成。その候補を見ながら運営会合メンバーや選考評価委員、採択者の全員で意見を出し合い「その場ですぐに価値を高める」という意味を込めて「バリューアップセッション」に決定。ライブ感のある名称変更に大きな拍手が巻き起こり、会場の一体感はさらに増していきました。

InnoJin株式会社:誰もが医療にアクセスできる世の中を作る

バリューアップセッションの記念すべきトップバッターは、InnoJin株式会社の共同創業者・奥村雄一氏が登壇しました。

ICTスタートアップリーグ採択者限定イベント

事業概要と挑戦:
順天堂大学発スタートアップとして2020年12月に設立されたInnoJin株式会社。医療機器となるスマホアプリや、眼科オンライン診療プラットフォームを開発することで、デジタル診療の普及を目指しています。今回採択された研究テーマは「VRを用いた小児弱視訓練用プログラム医療機器の開発」。弱視の子どもたちにけん玉やテニスのVRゲームをしてもらい、それ自体が眼の治療にもなるというものです。

課題①メディアへの露出:
小児の弱視訓練用のVRアプリを用いた特定臨床研究を10月からスタートする予定。実際に弱視の患者を対象に実施するためにプレス等に露出を増やしていきたい

課題②オンライン診療「てのひら眼科」の事業拡大:
メインの事業としてスタートしているオンライン診療プラットフォームを用いた「てのひら眼科」では、医療の行き届いていない医療過疎地や、インバウンドの多い自治体への医療サポートの取り組みも考えている。また、スポーツ選手やeスポーツ選手へのサポート、タクシー会社やバス会社といった目の健康を重視している事業会社とのコラボレーションも視野に。アイデアはたくさんあるが、どこに向き合っていけばいいかアドバイスがほしい。

課題③資金調達出:
今後の成長戦略の一環として、シリーズCラウンドでの資金調達を検討している。弊社とともに事業拡大にご協力いただける事業会社や、ヘルステック分野に関心をお持ちのベンチャーキャピタル(VC)等を紹介いただきたい。

運営会合メンバー、選考評価委員からの金言:
スポーツ業界にコネクションがある選考評価委員の谷元樹氏(Caravan Japan 代表取締役社長CEO)は、InnoJinが開発中の眼精疲労など目の不調を解決するサービスについて触れ、自身が買収したアメリカのスタートアップの映像と音を使用し、数分でリラックス状態になれる商品を例に出しながら、世界でも勝っていけるポテンシャルに期待していました。

ICTスタートアップリーグ採択者限定イベント

さらに、より多くの人に眼科診療のアプリに触れてもらうために、選考評価委員メンバーであり、名門レーシングチーム『トムス』の経営に携わる谷本勲氏(株式会社トムス代表取締役社長)からレーサーへの転用や、福田氏から多くの人が集まる量販店とのコラボレーションといった具体性のある紹介支援に発展しました。

株式会社トイエイトホールディングス:東南アジアで展開している事業をどのように日本に“逆輸入”させるか

ICTスタートアップリーグ採択者限定イベント

当日は、急きょ空きが出たため、2人目の登壇者はその場で希望者を募ることに。体を乗り出して勢いよく挙手したのは、株式会社トイエイトホールディングスの石橋正樹氏。もう一人の立候補者とのじゃんけん対決を制し、バリューアップへの期待を胸に登壇しました。

事業概要と挑戦:
株式会社トイエイトホールディングスが研究しているのは「AI発達評価を活用した包括的就学前支援」。スマートフォンのアプリを使用して発達健診を可能にし、現在はマレーシアをメインに、東南アジアで事業を拡大しています。

マレーシアでは発達健診の仕組みが整っておらず、発達障害の疑いがあると専門家の不在や人手不足を理由に通園を断られるケースがある。そうした子どもたちの受け皿として療育センターがあるが、人材とノウハウの不足で長い待機リストの状況にある。この問題を解決するため同社は、マレーシアの州政府に働きかけ、アプリによる発達健診を導入しました。この取り組みにより子どもの発達状況を客観的に把握できるようになり、不必要な退園を防ぎながら、適切な療育につなげる仕組みを確立しました。現在、発達障害が疑われる待機児童約400人をゼロにするプロジェクトを州政府5カ年計画の予算で実施しています。

インドネシア、ラオス、シンガポールでも同様の事業展開を進めていますが、石橋氏は国ごとに管轄する省庁が異なり、「どこに話をすればいいかが常に手探りである」ことが大きな課題になっているそうです。そして、この課題は「この事業をどうしたら日本に導入できるか」という今後の展望においても同様の障壁となっています。

運営会合メンバー、選考評価委員からの提案:
福田氏は「医者や学校に使ってもらうのがいいのでは。今日は総務省の方も来ているので、総務省を経由して、厚生労働省と文部科学省に話を持っていったほうがいい」とその場で解決への糸口を明示、総務省への橋渡しを約束しました。「こういうことがこのリーグにいる最大のメリット。同じような悩みを持っているスタートアップが抱える課題に対して、ただアドバイスするだけではなく、具体的に解決につながる支援をしていきたい」と話しました。

ICTスタートアップリーグ採択者限定イベント

■イベント総括
バリューアップセッションの後は交流会の時間が設けられ、参加者全員で名刺交換や具体的な支援について熱い話し合いがいたるところで行なわれました。
福田氏の冒頭あいさつ、名倉氏のセッションなどを通して、参加者の目線ががっちりと合い、上昇志向の空気感を保ったまま進行。急なセッションの名称変更や、スピード感のある支援の決定など、まさにリーグの理念を体現するような時間となりました。終了後もバリューアップセッションの登壇者はその熱気を帯びたままでした。
InnoJin株式会社の奥村氏はイベント全体を振り返り、「みんなで作り上げていくんだという意識が強く感じられた」と総括しました。今回のイベントで得られたものについて尋ねると、「アイデアを具体的に掘り下げ、解決策を提示してもらうスピード感がとても速くて、一緒に取り組んでくれている姿勢を見せていただけたのが、すごくうれしい」と笑顔を見せました。
“緊急登板”となった株式会社トイエイトホールディングスの石橋氏も「一番の収穫はいろいろな人に話しかけてもらえたこと」と充実した表情でコメントしました。
また、名倉氏は今回の参加者について「かなりの倍率の中から勝ち抜いてきた。世界で戦えるポテンシャルがある」と高く評価しました。さらに「今回は(バリューアップセッションで)世界で戦えるスタートアップ2社の話を聞けてよかった。これから、彼らをどう導いていけるかが、このリーグの勝負どころになるだろう」と今後の展望を語りました。
第1回リーグアカデミーを終え、この会が今後の熱狂を生み出すきっかけとなるか。参加者たちの動向に注目が集まります。

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